町の歩き方

ひとくちに町歩きといっても、人によって面白く感じる風景は違います。ただ、町には歴史があり、それぞれの時代の特徴を示す建物があります。古いものと新しいものが混在しているのが現在の町です。頭のなかから新しいものを消していき、古い風景を思い浮かべることが町をみる面白さにつながります。

堤防に囲まれた町 
 知多半島は三方が海に囲まれています。西は伊勢湾、東は衣浦湾に面しています。そのため、知多半島の町は、海と密接に結びつきながらつくられてきました。町並みを歩くときは、まず海を意識しながら歩いてみると良いでしょう。
 写真1は、矢田川河口部の風景です。昭和30年代までの風景と現在の風景の違いは海・川と陸との接点に堤防が築かれていることです。

大野川河口部
写真1

1958年(昭和34)の伊勢湾台風によって、知多半島の景観は一変しました。水害から町を守るための一つの方法として、堤防が築かれたのです。昔の風景をイメージするときには、堤防を取り払った風景を思い描くと良いでしょう。堤防外側の水際の高さと、堤防内側の古い倉庫の高さがほぼ同じ高さに保たれており、川から直接蔵に運ぶ風景を想像することができます。

●歩く人々を楽しませる建物 
 明治後期から昭和初期にかけての建物には、独特の雰囲気が残っています。淡青色で塗られた洋館風の建物は、現在でもわりと病院として残っています。和風住宅廊下づたいに洋館に続く建物、木造三階建ての建物など、町を歩いていると色々な面白い建物が目につきます。昔の建物には、町を歩いている人々を楽しませる工夫がなされています。

中埜銀行
写真2
 写真2は、1926年(大正5)完成の中埜銀行の建物です。現在も当時と変わらない姿で残っています。この建物の特徴は、道の角の部分に玄関があることです。どの方角からみてもよく目立つように作られています。

表通りの町歩き
 表通りは、人目を惹きつける工夫がされています。とくに、上をみながら歩くことをおすすめします。二階建ての格子のある家があったり、酒屋の古い看板がみられます。看板は目立つところにあるので、すぐ目に飛び込んできます。
 写真3は、酒屋の古い看板です。なかに「子の日松」(盛田酒造)の看板がありますが、現在は松がとれて「ねのひ」に変わっています。最近、知多半島の酒蔵の廃業が目立ち、酒造業を続けることの難しさを感じます。

罫線

しかし、古い看板を目にすると、かつて酒造りが華やかだった頃の風景を思い出すことができます。看板だけでなく店の名前にも注目してみましょう。「桶朝」という雑貨屋、「かじ捨」というポンプ屋がありますが、少し前までは、桶屋・鍛冶屋を営んでいた店です。時代の流れのなかで、商売を変えてしまいましたが、かつてのものづくりを知ることができます。

酒造り古い看板
写真3

 また、店構えは、大きな看板が付けられたり、シャッターや手動の日除けシートが付けられており、新しく造り替えられたようにみえることがあります。しかしよく見てみると、リフォームはしているものの、実際は古い建物がそのまま使われていることも多く、店のなかに入ると、懐かしさを感じることのできる店もあります。

路地の町歩き
路地歩きは、表通りに比べ華やかさはありませんが、生活感の漂う雰囲気が魅力です。
江戸時代から明治時代にかけての路地は非常に狭く、人がやっとすれ違えるほどの道幅です。写真4は、武豊の味噌蔵が建ち並ぶ路地です。古い路地は、道の真ん中に排水溝が掘られていて、現在も暗渠になっているものの、排水溝はそのままになっています。

武豊路地
写真4

 写真5は、亀崎の井戸風景です。路地の奥にあり、井戸の周りは広くスペースが取られています。かつて、野菜を洗ったり、洗濯をしながら、近所の人たちはおしゃべりを楽しんでいたようです。路地の奥にある生活感は、水道の普及によって変わりましたが、井戸端会議の様子を思い浮かべながら、あまり使用されなくなった井戸を眺めてみるのも面白いかも知れません。
まだまだ、見どころは色々とあります。井戸の手押しポンプや伊勢湾台風浸水位標など、ふだん何気なく歩いている町にも、古い時代を感じさせるものはたくさんあります。目線を上にしたり、下にしたり、眺めていると思いがけないものが、きっとみつかるでしょう。

亀崎の井戸風景
写真5