イルカが島にやってきた− 南知多町 日間賀島

Himaka Dolphin Gallery
いるかと遊ぶ子供
イルカのトレーニング
並んで泳ぐイルカ
ビーチからイルカを眺める人々
子供と遊ぶイルカ

 日間賀島は、三河湾に浮かぶ、人口約2,200人、周囲約5.5kmの漁業と観光の島です。1995年の夏、ここへ知多半島南部・美浜町にある海洋博物館「南知多ビーチランド」から初めてイルカがやってきました。目的は研究とトレーニングです。
 日間賀が選ばれたのは、穏やかな入り江になっている島のビーチがイルカ飼育に適しているという自然条件に加え、島の観光協会と漁業組合がタイアップして、ビーチランドからの研究支援要請に積極的に応じたからです。
 研究は以後、2001年に至るまで、毎夏おこなわれています。

 
●イルカのトレーニング
1) いつも水槽の中で暮らすイルカが、広い環境あるいは魚や海藻がある刺激的な自然の海へ出たらどうなるか?
2) その自然の海で生活することはイルカにとってよい結果をもたらすか?
3) 網のない外洋で自由にイルカを泳がすための技術開発は?
「日間賀島イルカリゾート計画」という、以上のような研究調査のため、ビーチランドのイルカの内、選ばれた何頭かが、島へ運ばれてトレーニングをおこないます。
 彼らがいるのは島の海水浴場でもありますので、私たち一般人が彼らと同じ海で泳ぐことも可能です。ただ、おわかりのように決してアトラクションではありませんので、例えばハイシーズンに海が人で一杯になり、イルカに負担がかかるようであれば、「イルカタイム」として、一定の時間、客に海から出てもらうよう依頼することもあるそうです。もっとも、逆に人が少なければ、運よく「イルカと並んで泳ぐ(泳いでいると偶然イルカが横を通り過ぎる、という意味ですが・・・)」ことができるかもしれません。
 ところで、「イルカが狭い水族館の水槽を出て海に帰れば、大喜びするにちがいない」と私たちは単純に思いがちですが、ビーチランドから派遣のイルカトレーナーの方によれば、「彼らにとっては水槽だろうとどこだろうと、自分が安全だと確信できる場所こそベスト。したがって「外洋=自由=幸せ」とは限らず、海に出たためにストレスがたまるイルカもいる」のだそうです。また、人間に対しても同様で、イルカ自身が「この人は安全」と確信するまでは、どんなにこちらが近寄っても絶対触らせてくれません。でも「安全」だとわかれば、逆に彼らの方から「遊ぼうよ」と近寄ってくることもあるとか。いずれにせよイルカも人間同様、その個性は千差万別。トレーナーの方々は一頭ずつの性格をよく理解した上で、それぞれに最適な方法を試行錯誤しつつ、日々地道にトレーニングを積み重ねていくのです。
 ただ、彼らも生き物です。島でトレーニングできるかどうかは、あくまでも体調や周辺の環境次第。そのため観光協会サイドでも「毎年必ずイルカが来る」というようなPRは一切していないそうです。
 
●イルカが島を「変えた」

 
一方、日間賀島に、イルカの来訪はどんな影響を与えたのでしょうか?
 それは島にとって転機の一つでもありました。例えば、イルカが気持ちよくすごせるためには、まず海をきれいにし、環境を整えなければなりません。簡単そうですが、大勢の観光客が訪れる浜辺ですから、地道で労力のいる作業が必要です。そこで観光協会は、漁業者や、島内の小学生らと協力し、海浜や飼育海域の海底の清掃に取り組みました。子どもの環境意識が高まって、親にも伝わります。その後、島全体の環境意識が高まり、海はずいぶんきれいになり、結果、島のイメージアップにもつながりました。
 また、イルカの滞在中、観光協会ではビーチランドの協力のもと、随時「イルカ教室」を開催し、来訪者にイルカを通じて海洋環境保護の大切さを教えています。こうした「学校では学べない」ユニークさは、とりわけ教育関係者から好評で、島には、遠くは海のない長野県や岐阜県等からも多くの小中学生が体験学習に訪れているということです。
 取材に訪れた際も、イルカが泳ぐ島の海は、水も透き通って、美しく保たれていました。「イルカにとって気持ちのいい海は、人間にとっても気持ちがいい」 − 日間賀島のイルカたちは、そんな「あたり前のこと」を気づかせてくれるのです。

 (取材協力:南知多ビーチランド、日間賀島観光協会)
<データ>
日間賀島(ひまかじま):「フグとタコの島」として知られる漁業と観光の島。海水浴や釣りを楽しむレジャー客だけでなく、フグ、イセエビ、タコなどの海の幸をあじわうグルメ客でも賑わっている。
イルカが島へ来るかどうか、あるいは滞在期間についてはイルカの体調や状況次第なので、詳細は日間賀島観光協会まで問い合わせのこと。なお、島ではイルカ以外にも漁業体験など、さまざまな体験学習のメニューを準備している。また、南知多ビーチランドでは通年でイルカと触れ合うことができる。(詳細は本書○P参照)
◆アクセス:南知多町の師崎港から高速船で約10分。または美浜町の河和港から約20分。◆日間賀島観光協会:TEL 0569-68-2388 ホームページ: http://www.himaka.com